2020/06/13
「珍美の食に対するとも、腹八分にてやむべし。十分にあきみつるは後のわざわいあり。少しの間、浴をこらゆれば後のわざわいなし。」
「酒・食・茶・湯、ともによきほどと思うよりも、ひかえて七八分にてなおも不足と思うとき、早くやくべし。飲食して後には必ず十分にみつるものなり。
食するとき、十分と思えば、必ずあきみちて分に過ぎて病となる」
「養生訓」で貝原益軒が唱えている「腹八分」は、近代の「カロリー学説」から見たら論外のことでしょう。
1900年初頭、ドイツの生理学者ルブネルはミュンヘンの労働者を調査し、彼らが一日3600キロカロリー以上の栄養を取っていたことから、元気で働くためにはたくさん食べることを奨励しました。
ルブネルの時代と違い、カロリーの取り過ぎはいけないというのが今では建て前となっていますが、それでも十分にカロリーを取らなければ、健康は維持できないと考えている人は多いようです。
「腹八分」も、単に食物の取り過ぎに害を諌める言葉のように使われていますが、誤解してはいけません。腹八分とは、その字義通り「カロリー制限」なのです。
益軒は言う。
「人の身は百年をもって期とす。上寿は百歳。」
にもかかわらず
「長命なる人は少なし。」
「これ、皆、養生の術なければなり。」
益軒の言う腹八分こそ、実は最高の長寿法です。
このことは長寿遺伝子の発見によって裏づけられています。
遺伝子とは、生物の細胞の中にあって、個々の遺伝子情報を伝える基となるものですが、現在、こうした遺伝子の中には、老化や寿命をコントロールしている遺伝子が50〜100個ほどあることが分かっています。
中でも注目されているのは、米国マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授が、2003年に発見したSir遺伝子です。
この遺伝子をオフからオンに切り替えるなら、長寿となるだけでなく、老化のスピードが抑制されて、若々しい頭脳と肉体になります。
カロリー制限か寿命にも影響
Sir遺伝子は誰もが持っている遺伝子です。その長寿遺伝子の活用方法が、なんとカロリー制限なのです。
米国ウイスコンシシ大学の研究グループは、アカゲザルを15年間、カロリー制限して飼育したところ、いつまでも毛にツヤがあり、目つきが鋭く、若々しかったのに対して、カロリー制限せずに、好きなだけ食べさせたサルは、毛がばさばさで動作が鈍く、早く衰えてしまいました。
カロリー制限をしたサルのガン発症率は低く、DHEASが2倍も分泌されていました。
DHEASは若返りホルモンとして知られ、脳の神経細胞を増やすと言われています。
長寿者とは病気と無縁で、いつまでも若々しく、元気な人たちのことをいいます。
そういう人たちは皆、長寿遺伝子が、活性化されているのです。
満腹になる前に食事をやめるコツは、食物をよく噛み、食事をゆっくり行うことです。
できれば1口30回噛かみたいところです。
ゆっくり食べれば益軒が言うように、腹八分でも後から満腹感を覚えることができます。
また、運動をよくすることも長寿につながります。
これまでの研究でも、長寿者には適度な運動を続けている人が多いことがわかっています。
要するに、運動をすると細胞内のエネルギーが欠乏し、腹八分と同じ効果になるのわけです。